alacantonade

精神分析と映画をめぐる読書案内

ミシェル・クルノのゴダール論

*Michel Cournot : Au cinéma (Melville, 2003)

 クルノには『気狂いピエロ』についてのテクストが二つあるが、そのうちのひとつ。以下は評論集『映画館にて』の巻末に収録されているもの。

もう夜か、鎧戸は下ろしたか、やみのうえに青で母音をいくつか書け、スクリーンは黒板じゃない、いや、黒板さ、はり紙自由、白いページ、ピエロは白の上に赤のマジックで書きつける、学習ノート、休み時間、カンバスに色を塗って乾かしなさい、スクリーン万歳私の自由万歳!

何時だろう、時間の小さな歯がぶつかる音が聞こえるか、無声映画マルタ騎士団、音楽は嵐と鳴り響き、空は怒りに身を委せ、またとつぜん降ってくる、映画の音は穴だらけ、目に見える音の小砂利、不安の鼓動、スクリーンあらゆるためらいへと開かれたボード、けが人がうめき声をあげる、大砲の音万歳、夜のやすらぎ万歳、息をしよう、風呂桶の水、ピエロはフランス語で文章を読む、スクリーン大声での朗読、ついに映画のサウンドはなにほどかのものになる!

うすぐらいスクリーン、ねむっているスクリーン、まくら、夢想のはためくページがうなりをあげて飛び立つ、青い母音どもと風、なんとうつくしい映画どこにいくの、なにを見せてくれるの、リュクサンブール公園ある木曜の午後、、おんなのこが環回しをしてる、かのじょは棒をうまくもてない、ちがう、かつて見た光景のオーバーラップだ、スクリーン分かちもたれた記憶、ご自由にどうぞ、ピエロは夜に買い物をする、クリシー広場の書店、ピエ・ニクレ、イデー叢書、はやくも抱えきれないほどの本、買い物袋がひつようだろう、目がまわりそう、ひるがおたち、セーヌ河畔、フラッシュバック日が暮れる、紅い夕陽、パリ血を流すいくつもの機械、映画はかなりのスロースタート、ピエロが風呂桶で大声で朗読する、廊下にちらっとマリアンヌ、シンフォニーの幕開け、映画は走り出している。

 全篇こんな調子でつづく。「ここで映画は生きられた経験となり、こんどはこの文章そのものがいちれんの言葉と映像をつむぎだしていく」(アントワーヌ・ドゥ・ベック)。