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精神分析と映画をめぐる読書案内

2012-01-01から1年間の記事一覧

セルジュ・ダネーのガス・ヴァン・サント論

Serge Daney : L'Exercice a été profitable, Monsieur., P.O.L, 1993. ガス・ヴァン・サントは最晩年のダネーが高く評価した若い才能の一人であった。ダネーの死後、コンピューターに残されたテクストをそのまま起こした本のなかに、『ドラッグストア・カウ…

セルジュ・ダネーの『ツイン・ピークス』論

*Serge Daney : L'Exercice a été profitable, Monsieur., P.O.L, 1993. セルジュ・ダネーはデヴィッド・リンチの映画を買っていなかったが(『エレファント・マン』の時評がある)、晩年にテレビの『ツイン・ピークス』をほめている。前回紹介した同じ遺稿…

精神分析と同性婚の問題:最近の記事から

フランスでは来年、同性婚(および同性カップルの養子縁組)がやっと合法化されそうだ。このところ、ファナティックな反対派のデモなども一度ならず報道されている。いうまでもなく、この問題をめぐっては精神分析関係者の発言もさかんである。 そうした状況…

<その後>の時:ジャック・ランシエールのタル・ベーラ論

*Jacques Rancière : Béla Tarr, le temps d'après, Capricci, 2011. タル・ベーラの世界をハンディに概観できる好著をランシエールがものしている。おそらく最初のタル・ベーラ研究書のひとつだろう(フィルモグラフィー等はついていない)。ランシエール…

「性関係の<存在>」:ジャン=リュック・ナンシーのラカン論

*Jean-Luc Nancy : L'> du rapport sexuel, Galilée, 2001. ラカン生誕100周年にあたる2001年に「性関係はない」というテーマで催されたL'Ecole lacanienne de la psychanalyse の会合での講演に基づくテクスト。 ラカンによれば、「性関係はない」。 とい…

「エロスとタナトスのはざまのモダニティー」:ピエール・マシュレのフロイト論

*Pierre Macherey : Freud : La modernité entre Eros et Thanatos(http://stl.recherche.univ-lille3.fr/seminaires/philosophie/macherey/macherey20052006/macherey12102005cadreprincipal.html) 『ヘーゲルかスピノザか』(新評論)などで知られるマ…

ラカン派によるユング論:『精神分析と宗教的なもの』

*Philippe JULIEN : La psychanalyse et le religieux : Freud, Jung, Lacan, Cerf, 2008. 『ラカン フロイトへの回帰』(誠信書房)の著者で、ラカン派を代表する論客の一人であるフィリップ・ジュリアンが、カトリック系の出版社(アンドレ・バザン『映画…

ジャン=ジョゼフ・グーの『モーセと一神教』論

*Jean-Joseph Goux, Les iconoclastes, Seuil, 1978. 『偶像破壊者たち』と題されたもはや古い本のなかで、ジャン=ジョゼフ・グーはフロイトの遺言的著作『モーセと一神教』を政治的な文書として読み解いている(「フロイトとナチズムの宗教的構造」)。 …

「超自我の発明」:エティエンヌ・バリバールのフロイト論

*Étienne Balibar : L'invention du Surmoi, Freud et Kelsen 1922, in Citoyen Sujet et autres essais d'anthropologie philosophique, PUF, 2011. 「超自我の発明 フロイトとケルゼン 1922年」は、2006年に行われた「来るべき精神分析」と題されたコロッ…

無秩序の思想家ラカン:アラン・バディウのラカン論

*Alain Badiou & Barbara Cassin : Il n'y a pas de rapport sexuel --- Deux leçons sur > de Lacan (Fayard, 2010) ; Alain Badiou & Elisabeth Roudinesco : Jacques Lacan, passé présent (Seuil, 2012) 『性的関係は存在しない:ラカンの「エトゥルデ…

ジャック・ランシエールのストローブ&ユイレ論

*Jacques Rancière : Conversation autour d'un feu : Straub et quelques autres, in Les écarts du cinéma (La Fabrique édition, 2011) 少し前に Sight & Sound が恒例のオールタイム・ベスト10のアンケート結果を発表したが、なかでベルナール・エイゼ…

ジャック・ランシエールのアンソニー・マン論

Jacques Rancière : Quelques choses à faire : Poétique d'Anthony Mann, in La Fable cinématographique, Seuil, 2001. 「なすべきなにごとか:アンソニー・マンの詩学」と題された文章において、ランシエールはアンソニー・マンの西部劇を論じている。初…

オーティス・ファーガソンのマルクス・ブラザーズ論

*Otis Ferguson : The Marxian Epileptic, in The Film Criticism of Otis Ferguson, Temple University Press, 1971. オーティス・ファーガソンについては、すでにヒッチコック論を紹介済みだ。明晰で鋭い批評ではあるが、ファーガソンの文章としてはちょ…

セルジュ・ダネーのフィリップ・ガレル論

*Serge Daney : Ciné journal, 1986, Cahiers du cinéma. セルジュ・ダネーは傷だらけの批評家である。彼が批評家として活動していた時代は、映画がかつてなく不毛な時代であった。それ以前に、彼の世代そのものが深い政治的な挫折を味わっていた。さらに不…

マリ=ジョゼ・モンザンの映画論

*Marie-José Mondzain : Images (à suivre), Bayard, 2011. モンザンはフランスの哲学者。10世紀の偶像破壊運動に対抗して書かれたニケフォロス2世の神学的文書の翻訳と註釈により注目を集め、この時代の偶像破壊論争への深い知見を武器に、よりアクチュア…

オーティス・ファーガソンのヒッチコック論

*Otis Ferguson, Hitchcock in Hollywood, in The Film Criticism of Otis Ferguson, Temple University Press, 1971. オーティス・ファーガソンは、1934年から42年まで The New Republic で時評欄を担当していた映画批評家(43年戦死)。 アメリカ最初の「…

Time のジェームズ・エイジー

* James Agee, Film Writing and Selected Journalism, The Library of America, 2005. ついにジェームズ・エイジーを語るときがきたようだ。 ピューリッツァー賞を受けた小説家であり、詩人、ジャーナリスト、脚本家、そして映画批評家。『アフリカの女王…

ロバート・ウォーショーの「映画の年代記:西部の人」

*Robert Warshow : Movie Chronicle : The Westerner, in The Immedi-ate Experience, Harvard University Press, 2001. ウォーショーの西部劇論。「悲劇的英雄としてのギャングスター」と並ぶ名篇として知られる。 発表されたのは、1954年。ペキンパーや「…

ロバート・ウォーショーの「悲劇的英雄としてのギャングスター」

* Robert Warshow : The Gangster as Tragic Hero, in The Immediate Experience, Harvard University Press, 2001. ロバート・ウォーショー(1917-55)は、Commentary、The Partisan Review などに寄稿していたエッセイスト、批評家。 その主な文章は、論…

マニー・ファーバーのゴダール論:マニー・ファーバーの批評(6)

* Jean-Luc Godard, in Farber on Film, 2009, The Library of America サミュエル・フラー論の前年にあたる1968年に、同じく Artforum に発表されたゴダール論は、質量ともに充実の論考。 このあと、70年に入ってからのファーバーは、主としてパートナーの…

マニー・ファーバーのサミュエル・フラー論——マニー・ファーバーの批評(5)

* Samuel Fuller, in Farber on Film, 2009, The Library of America. マニー・ファーバーの名文より。 今回はサミュエル・フラー論をよもう。 チェスター・グールドほどのスタミナも影響力もなく、ファッツ・ウォーラーのように無限にクリエイティブでもな…

セルジュ・ダネーのテニス論——ダネーのテレビ論(3)

* Le Salaire du zappeur, P.O.L, 1993. ダネーのテレビ論をもう一席。 ときあたかもテニスシーズンまっ盛り。それにちなんだお題をひとつ。 セルジュ・ダネーはリベラシオン紙上でテニス評を書いていたほどのテニスマニアだった。 ローラン・ギャロスのシ…

ラカンの『愛のコリーダ』論

*Jacques Lacan : Le Séminaire, livre XXIII, Le sinthome, Seuil, 2005. 『サントーム』は晩年のラカンの重要な講義録のひとつ。最近出た『精神分析の名著』(中公新書)に選出された21篇のなかにも、『エクリ』とならんで(なぜか?)ランクインしていた…

アラン・バディウのヴェンダース論:アラン・バディウの映画論(2)

* Alain Badiou : Petit manuel d'inesthétique (Seuil, 1998) ; Cinéma (Nova Editions, 2010) 「映画の偽の諸運動」(Les Faux mouvements du cinéma)の初出は 1994年。バディウ美学の(たぶん)代表的な著作『非美学ハンドブック』の一章を構成し、次い…

愛の讃歌——アラン・バディウの映画論

*Alain Badiou : Cinéma, Nova Editions, 2010. ジル・ドゥルーズやスタンリー・カヴェルと同様に、アラン・バディウも哲学と映画が同じ使命を担っていると考える。 それを一言で要約するなら、ほんらい結びつきのあるはずのないところに結びつきを模索する…

ジャック・ランシエールのフリッツ・ラング論

*Jacques Rancière : D'une chasse à l'homme à une autre : Fritz Lang entre deux âges, in La Fable cinématographique (Seuil, 2001) フリッツ・ラングがハリウッドで撮った『ルージュ殺人事件』(1956)は、ドイツ時代の『M』(1931)のある種のリメイ…

ダネーのジャン=ピエール・メルヴィル論——セルジュ・ダネーのテレビ論(2)

*Serge Daney : Un flic dans le petit écrin, in Devant la recrudescence des vols de sacs à main, Aléas Editeur, 1991. セルジュ・ダネーの単行本未収録全文集(La maison, le cinéma et le monde 1~3)がついに完結した。これについては注文中の現物…

セルジュ・ダネーのテレビ論(1)

*Serge Daney : Beauté du téléphone, in Devant la recrudescence des vols de sacs à main, Aléas Editeur, 1991. カヴェルのテレビ論が発表された5年後の1987年、リベラシオン紙上でセルジュ・ダネーによるテレビ批評の連載がスタートする。 ダネーもま…

スタンリー・カヴェルのマカヴェイエフ論

*Stanley Cavell : On Makavejev on Bergman, in Cavell on Film (SUNY, 2005) 1978年、ベルイマン映画の自作コンピレーションを携えてハーヴァード大学を訪れたドゥシャン・マカヴェイエフが「ベルイマンと夢」という講演を行う。 「ベルイマンを論じるマ…

スタンリー・カヴェルの『オペラ・ハット』論

*Stanley Cavell : What Photography Calls Thinking, in Cavell on Film (State University of New York Press, 2005) ; Cities of Words (Belknap Press of Harvard University Press, 2005) 「写真が思考と呼ぶもの」の初出は1985年(Raritan 春号)。『…